ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第91章 少女の瞳
12月01日
空が茜色に染まる頃馬車の窓から見えたのは立派にそびえ立つ高いコンクリート壁と金の装飾で飾られた大きな大きな純白の門だった
間もなく到着するとの知らせから約30分、やっと見えた目的地に胸が弾む
三日間の馬車の旅を経て果たしてどんな街が広がっているのだろう
馬車でしか訪れる事の出来ない国………
彼の話から随分と裕福な所だと聞いているしフランスのベルサイユ辺りの………なんて想像が膨らむ
目前に迫った門も大層なもので細部まで細やかな模様の走る門扉がゆっくりと開く光景は圧巻だった
「イルミさん!着きましたね!」
「まだ暫く走るよ。」
「楽しみー!」
「…………。」
ドキドキと高鳴る胸をそのままに窓にへばり付いていると目に飛び込んだ光景は余りにも想像とかけ離れていて静かに身体を離す
窓の外を流れる景色はお世辞にも豪勢で優雅………なんてものではなくて
平凡……いや、平凡よりも随分と貧しく映ったのだ
遠の昔に割れた石畳は土にまみれて悪路を作り
コンクリートそのままの建物にはきちんとした扉が取り付けられていない
木材で作られた建物は継ぎはぎだらけで心許なく屋根は薄けたシートで補てんされていた
そして何より私の表情を曇らせたのは其所に居る人々の姿だった
冬らしくダウンや防寒対策はしているし靴だって穿いている
だけど皆一様に痩せていて入国した私達の馬車を食い入る様に見詰める視線に貧しい生活を感じたのだ
門の雰囲気や前情報から想像した街並みとは随分と違う
後方を振り返れば見える門は白く壮観に輝いているのに国を囲む高いコンクリートの壁は鼠色が重く見える
その間にも流れる町からは沢山の瞳が視線を送り私は戸惑いを隠せないでいた
「………あの、……「沙夜子、座ってなよ。」
言い掛けた声に直ぐ傍で彼が言葉を被せ、其れと同時にシャッとカーテンを閉じられてしまった
益々戸惑いが募るが有無を言わさぬ声色におとなしく椅子に座ると
彼は馬車にある全てのカーテンを閉め切り悠々と残りのコーヒーを唇に運んだ
ガタガタと鳴る馬車は景色を無くして密室と成る
特に私が何かをしたり話した訳でも無いのに僅かに感じる彼の威圧感にそっと視線を逸らして只到着を待つ事しか出来なかった