ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第88章 魔王の森
「ねぇ……イルミさん………」
不安気に漏れる声
続く言葉は聞かずとも解った
「沙夜子が眠るまで起きてるから安心しなよ」
繰り返し同じ事ばかり口にする彼女は余程今の環境が怖いらしい
頬にそっと触れて出来るだけ柔らかく撫でれば彼女は幾分か安堵を滲ませた
普段より近く身を寄せる彼女からふんわり甘い香りが鼻を掠めて平凡な男と何ら変わらない欲が燻る
偶然にも目にした濡れた柔肌が脳裏に浮かんで彼女の様子をチラリと伺えば彼女はまだ窓の外を凝視していて
漏れそうに成った溜め息を殺す
今夜辺り………なんて思っていたがそんな雰囲気に成りそうも無いな
なんて思考を巡らせていた時だった
「っ…………何……?!」
彼女は大層身体を跳ねさせて声を上げた
視線を追って向けた先風に揺れる蔦が見える
「…………人?!?!」
彼女は何の変哲も無い植物に酷く怯えていた
「…………蔦だよ。」
「………ほんまに蔦ですか………?」
紛れも無く蔦である
其れが風に揺れているだけの何の脅威も力も無い退屈過ぎる普通の出来事だ
「蔦だよ。」
「…………そっかぁ………」