ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第86章 ホームシックを吹き飛ばす話
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つい先程まで死を間近に感じていた私だが無傷で生きている
スプリンクラーが有能だった為に燃え盛る壁やフライパンは無事に鎮火された
焼け焦げた壁、悲惨に大破したオーブン、水浸しのキッチン
「……………イルミさん………何があったんですか…………?」
頭の先から足の先まで水浸しだが今はそんな事どうでも良かった
何故あんな事に成っていたのかが一番の問題である
私が一人ホームシックにうちひしがれている内に一体何が起きたというのだろう
同じくびちゃびちゃに濡れた彼は張り付く髪を鬱陶しそうにかき上げた後に
「夕飯を作ってたんだけど燃えちゃった。」
無感動な瞳を覗かせて単調に言った
…………燃えちゃった。では無い
料理を振る舞ってくれようとしていた事は彼がフライパンを持っていたし予測出来た
何がどう成ってファイヤーしていたのかが知りたいのだ
暫くの間無言で見詰め合っていたが再び口を開く
「…………何故燃えたんですか……?」
「フランベしたら燃えた。」
「…………オーブンは…………?」
「解らないけどグラタンを作ってたら爆発した。」
「……………」
「……………。」
彼はアパートで完璧な料理を振る舞ってくれた
私はあの日の感動を今も忘れてはいない
少し不慣れではあるがてっきり料理迄完璧な人なのだと思い込んでいた
もしかしたら爆発し、燃え盛っていたのは私の住むアパートだったかもしれないのだと思うとゾッとした
彼と料理の相性は爆発か完璧のふたつにひとつなのだと認識を改める
そして最も気掛かりなのは
「イルミさんお怪我は…………?」
「無い。………沙夜子は?」
「……全然何も……」
彼は私より遥かに炎に近い場所にいたにも関わらず無傷だった
その事実に心底安堵する
普通の人間なら無傷なんて事は絶対に無いだろう
やはり彼は超人だった
「………ははは……………」
「あはは」
只唖然と乾いた笑い声を上げる私を真似て彼は単調に笑い
その後彼がキッチンに近付く事は無くなった
そして私の激しいホームシックはいつの間にかオーブンの扉と共に吹き飛んでいたのだった