ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第83章 夕焼ける道
小ぢんまりとした店には人の良さそうなおばさんがいた
「すみません!たい焼き2つください!」
なんて嬉々として注文を済ませる私に彼は半信半疑のままお支払いを済ませてくれて私はお礼を伝える
「それは別に…………それより、やっぱりおかしいよ。鯛の匂いにしては甘過ぎる。沙夜子の知ってる食べ物と商品名は一致していても内容は異なっているんじゃないの。」
なんて生真面目に分析して警戒を滲ませる彼に吹き出しそうになる
この香りは私の知るたい焼きと何も変わらない
しかし魚の鯛だと思っているなら随分と違和感だろう
内心ニヤニヤしながらも頬の内側を噛み締める私の隣で
クリっと首を傾げながら頻りに辺りの匂いを確認する彼は動物的な愛らしさに満ち溢れていて脳内荒ぶっていたのは秘密である
暫くして紙の包みでたい焼き2つをおばさんから受け取った
その内ひとつを彼に手渡せば彼は見えうる情報を得る様に大きな瞳でたい焼きを凝視した
「…………ブッ!!!……ふふふっ」
なんて汚く吹き出した私に怪訝な表情が向けられる
「何がおかしいの。中身は何。」
見た目を確認して鯛を模している事は解っただろう
しかし中身にまだ鯛が入っているかもしれないと警戒する彼は本当に可愛い
彼はお汁粉やあんこの類いも私の世界で平然と食べていたし嫌いでは無い筈だが
魚の鯛とこの甘い香りから想像し随分とミスマッチな食べ物だと思っているのかも知れない
ここは口で説明するよりも私が先陣をきる事にした
「いただきます!」
ホカホカと湯気を上げる出来立てのたい焼きに噛り付けばフワフワパリパリの生地の中から程よく甘いあんこが口の中で広がった