第82章 負傷から

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私が負傷した事で自然と体験の事を彼は口にしなくなった

キラキラ輝く瞳で異文化に興味を示す彼の姿は世界は違えど海外からの外国人観光客と変わらず可愛らしい


そんな彼の姿を見れないのは非常に残念だが

彼が写経や写仏に興味があるとは思えないし利き手では無いにせよこの手では多少厳しい物がある


そんな事を思いながらも静かな空間で穏やかな時間を過ごす

彼は部屋に備え付けられていた大仏の本を黙々と読み私は過去の彼の写メを見返しうっとりしていたのだが何気無く机に置いたままの体験一覧に視線を落とした



………………着物着付け体験…………



これは手を痛めた事を考慮せずとも関係無く体験出来るのでは無いだろうか…………



私の世界では浴衣を着て彼にドキドキしてもらう作戦を密かに決行したり、外出の際に然り気無くギャップ萌えを狙っていたが此方の世界に来てからは皆無だ

勿論デートの際は普段よりお洒落しているけど全ての洋服を彼は把握している

私発信で浴衣を着て外出しようと繰り出す事も出来ない今この機会はチャンスなのではないだろうか………？




(…………………着物でドキドキ作戦……………)



彼が着物の着付け体験に興味があるとは思えない


しかし私の思考は彼を如何にドキドキさせ胸キュンさせるか、という純真なる乙女チックな方向に展開していた


一見無表情ながら外国人観光客ばりに瞳を輝かせていた彼の事……着物姿の私を見たら物珍しさからでも少しくらい胸キュンしてくれるかもしれない……

以前は浴衣姿で頑張ってみたが正直彼がキュンとしてくれたかは解らない……しかし今回は恋人としてその姿を披露するのだ




少なからず以前よりも勝算は見込めるはず……………！！！！



私は体験一覧の紙を鷲掴み隣の彼へ身を乗り出した


「イルミさん！！私着物着付けてもらいたいです！！」


突然機敏に動いた私だが彼はそんな私の行動に慣れきった様子で悠長に視線を向けた