ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第77章 悲しみの物語
思い悩む内に一月、また一月と時は流れた
両親、はたまた国中からも婚約を急かす声が上がり始めた頃
憔悴する僕の元に一人の女性の肖像画が届いた
黄金色の髪
ブルーの双眼
愛らしい唇
彼女だと思った
長く時が経っていたが間違い無いと何故か確信があった
即決で彼女の使いに婚約の旨を伝え、その日の内に馬車は国を出て行った
僕は随分高揚していたと思う
あの日あの時から好意を抱き続けた女性が僕の妻に成るのだと思えば夢見心地で
「婚約者の名を教えては頂けませんか」
食事の席で放った声はやけに弾んでいて
「ルミール=フランベルだ」
答えた父は優しく微笑んだ
………両親はきっと僕の気持ちに気付いていたのだろう
彼女の名を僕は忘れてはいなかった
幼い僕が恋をした女の子の名はルミール=フランベル
僕が婚約を決めたまさにその人だった
彼女を想い眠れない夜は数え切れない程あったけれどその日の夜は違っていた
身が裂けそうに切ないのでは無く只彼女との再会に鼓動が煩かった
婚約の意向を示してから一週間以内に必要な物を持ち女性は城に入るのがしきたり
僕は一週間の間を途方も無く感じながらも毎日毎日彼女を待っていた
喜びに次いで募り始める不安
彼女はあの日を覚えているだろうか
彼女は僕を覚えているだろうか
浮き足立っているのは僕だけで彼女の記憶に僕は居ないかもしれない
只無理矢理に婚約者を宛がわれこの城にやって来るのかもしれない
だけどそれら全ては僕の杞憂に終わった
意向の通達から一週間後
彼女は城にやって来た
淡いピンク色のドレスを揺らし馬車から降り立った彼女はあの日と変わらぬ笑顔で僕に笑った
「お久しぶりですシュライア様、お会いするこの時を心待ちにしておりました」
伏せられた睫毛、紅をさす白い肌
彼女はあの日よりもずっと魅力的で美しい女性に成長していた
「それは僕の台詞です……ずっと貴女に会いたかった」