ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第74章 古城のホテル
いつも美味しいと誉めてくれたり「もう少し濃い方が好き」なんてアドバイスをくれる
魚を焦がす事だってあるのに彼は何も言わずに完食するのだ
焦げた旨を伝えても対応は変わらず「沙夜子はそそっかしいから」と、溜め息混じりに注意して
普段歯に衣着せず「不味い」「腐ってるよ」なんて言うのに私の手料理に不味いとは一度も言った事が無いのだ
私はプロのシェフでは無いし料理のレベルを比べられては勝ち目が無い
普段ホテルで出される物の方が断然美味しいし
きっと口に合わなかったり不味いと思う事もあるだろう
だけど彼は私の手料理を楽しみにしているとすら感じさせてくれるのだ
魚料理以外の皿が順調に減って行く姿を見ながら
「イルミさんは優しいですね」
伝えた私の言葉に彼は訳が解らないと言いた気な表情を浮かべていた
________"
夕食が終わり幸せな気分に包まれていた私だが彼からの唐突な知らせにより私の気分は急降下している
「……今から……?……お仕事…………」
「暗殺は明日、今日は下見と準備」
「………いつ帰りますか……?」
「明日の昼迄には一度帰る」
「一度……?」
「依頼は明日の昼過ぎだから。体制を整えたらターゲットを消しに行く。」
彼は今から外出すると宣言した
仕事で来たのだからそれは重々承知だけどまさか今晩からだなんて思いもしなかった
先程迄が幸せ過ぎて行かないで、なんて面倒な台詞を溢しそうに成ってグッと堪える
彼は只でさえ私を隠して仕事に勤しんでいるのだ
普通に仕事をこなしていた今迄よりも格段に気苦労や負担が増えている事は想像に難くない
その上我が儘を言って彼を困らせるなんて出来なかった
黒のジャケットを羽織る背中を引き留めたくて後ろ手に拳を作った