ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第63章 鈍感な感情
「………沙夜子には人殺しなんてさせたくない」
彼は声色を変えぬままに言葉を紡いだ
「沙夜子にはそのままでいて欲しいと思う…………だけど、俺と一緒だとそんな日がいつか来るかもしれないって時々思うんだ」
「…………。」
「パーティーに来てたマフィアの嫁を俺は以前殺した。というかそんなの数えたらキリが無いけど、どんな風に人が死ぬのか俺は知ってる。」
「………はい……」
「仕事だしその事に関しては別に何とも思わない。殺した相手がどんな顔だったのかすら覚えてもいないけど……パーティーで会ったマフィアの身成が随分と変わっていてね」
「はい………」
「面影も無く痩せて最初誰かも解らなかった。…………殺した相手にも殺された身内にも何の感情も湧かないには変わり無いけれど、もし俺が死んだら沙夜子はこの世界でどうなるんだろうって思った。」
「…………」
「…………それとは逆に沙夜子が死んだら俺はどうなるんだろう?…………自分がいつ死ぬかなんてどうでも良かったし、ましてや人の事なんて気にした事も無かったけど沙夜子は違う」
「はい」
「………ねぇこの感情って何て言うんだろう。」
彼は真っ直ぐに絵画を見詰めたまま言葉を紡ぎ終えると私に目を向けた
彼は自分の気持ちを伝えるのが苦手だ
それは家庭環境や性格上仕方がない
私なりに伝えられた言葉から彼の気持ちを考えるなら
『私に人殺しはしないで欲しい、だけど万が一自分が死んだ後に私が一人残ってしまったなら、誰かに命を狙われてしまうかもしれない。私は生きる為に誰かを殺めるかもしれない。』
其れに加えてマフィアの姿に私や彼自身の姿を重ねたのでは無いだろうか
同じ裏社会で生きる人間だからこそ彼には身近に思えたのかもしれない
変わり果てたマフィアの姿を見た感想に罪悪感や後悔は一切含まれていない印象を私は受けた
その点が解っただけで十分だった