ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第61章 彼の配慮
どれだけそうしていたのか覚醒した意識に体勢を正せば彼は忙しなくスマホを操作していた
「おはよう」
「おはようございます」
気だるげに髪をかき上げた事で覗く横顔は真剣そのもので画面から視線を逸らさず文字を打つ仕草から仕事の用件なのだと理解出来た
彼はスマホを二つ持っている
プライベートのスマホは白、仕事用は黒
白いスマホが鳴るのは私が二人の写メを彼に送った時くらいのもので
黒いスマホは時間を共にする中で幾度と無く音を鳴らしていた
その度に彼は近寄り難い雰囲気を放つ
平気で隣に座っていられるのだから特段オーラを放ったり殺気を漏らしている訳では決して無いのだろうし
そもそも彼はプロなのでそんなミスはしないにしても
普段に増して無機質で淡白な雰囲気は私に向けられる柔らかさなんて物を微塵も感じさせないのだ
真っ直ぐ落とされた視線は画面を見据えているのに
普段に輪をかけて彼は周囲に細心の注意を払っている様に思えた
私と部屋で過ごす時以外彼は決して気を抜かない
以前からそうだったのだが彼の世界にやって来てからは益々そうだ
暗殺という仕事上当然なのだが私みたいな無力な女が一緒では随分足手まといだろうな……なんて思ってしまった
部屋にいても彼は時折周囲を警戒する様にじっと神経を研ぎ澄ませている様な素振りを見せる
本来なら要らない負担を彼に掛けてしまっている事は明らかだった
…………そんな事を考えたって私は彼から離れるなんてしたくもないし無駄な思考なのかもしれないが
ぼんやり横顔を見詰めていると猫目がちな瞳が私を捉えた
「お待たせ、行こうか」
いつの間にか黒いスマホは手元に無く彼の雰囲気から冷たさが消えていた
「はい!」
笑顔で頷いた私に向けられる優しい微笑みにドキリと胸が跳ねて頬が熱くなる
仕事に向ける真剣な眼差しも優しい微笑みもどちらも素敵なんて彼は本当に魅力的な人だ