ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第60章 異世界の魚達
「…………綺麗けど寂しい花ですね」
「ふーん。」
彼は特段興味が無いらしい
ぼんやりとした返答を聞きながらも草花を眺めていると唐突に鉄格子が現れた
酷く景観を損ねる異質な存在に何があるのか覗き見て驚きの余り声が漏れた
「っ………でか!!」
立派な茎は私の背丈よりも太く付いた葉は彼の背丈も悠に越えているだろう
その巨大さは圧巻なのだが
……………しかしそれよりも
「……………きしょっ………」
自然と飛び出した言葉は事実だった
食虫植物を巨大化させた様な出で立ちの其れは毒々しい紫に赤の斑点模様となんとも気持ちの悪い植物だった
その見た目から人体に何らかの害を及ぼしそうな印象を受ける
「沙夜子覚えてるかな、前に話した食人植物。」
怪訝に眉を潜める私に彼は真っ直ぐ鉄格子を見上げたまま言葉を紡いだ
…………食人植物…………
私はしっかりと覚えていた
元の世界で彼と訪れた植物園にて私達は食虫植物を眺めながら会話を交わした
彼はその時"自分の世界には食人植物が存在する"と教えてくれた
私は平凡な世界しか知らず彼の世界では簡単に死んでしまうだろう
私が行く事は無いのだけど………なんて思っていた
彼が食人植物なんて単語を発したのはあの一度きり
「はい!淡路島ですね!」
頷いた私に一瞬横目を向けた彼は続けた
「これが話してた食人植物だよ。もっと成長すれば牛を丸飲みにする事も出来る。」
なんて説明を聞きながら私は泣きたいくらいに胸が温かくなっていた
私と交わした些細な会話を彼が覚えてくれていた
特に何の役にも立たない雑談だった
私の中に大切に仕舞っていた記憶を彼もまた忘れずにいてくれた
「言った通り沙夜子の世界の植物を大きくしたみたいな見た目でしょ。」
ぎゅっと握り直した手をしっかりと握り返してくれる大きな手が温かい
彼も同じ様にあの日の記憶を大切にしてくれていたのだろうか……
私は溢れる気持ちをそのままに笑顔を向けた