ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第59章 愛しい間抜け
「本当だ、エビ美味しい。」
「……でしょ!!」
変に裏返った声にクスリと笑い声が聞こえて恥ずかしく成る
私はきっと挙動不審だろうし発した声も馬鹿みたいでさぞ面白いだろう
「………………。」
「沙夜子」
「っはい!」
突然名を呼ばれて大きなステーキを頬張ろうと間抜けに開いた口から慌てて声を上げる
「その髪、どうやったらそんなセットになるの?」
「…………え………?」
…………………髪………………?!?!
私は今日特に髪型をセットしたりしていない……………
「頬に何付けてるか知らないけど、誰も取ったりしないからゆっくり食べなよ。」
「っ………………」
「別に気に入ったなら追加注文すれば良いし。」
「……………ちょっと失礼します」
私は即座に席を立って洗面所に向かい鏡に映る自身の姿に発狂したくなった
元々癖の強い髪は爆風に巻き込まれた様に荒ぶり
口元を拭った事により移動したのか普通に食事をしていれば有り得ない場所にソースの塊が付いていた
小汚ない上に酷く間抜けだ
良く言えばわんぱくな雰囲気だが良い大人がわんぱくなんて馬鹿としか言い様が無い
記憶を振り返る
ホテルに到着した時は髪に異常は無かった、考えられるのは昼寝をした時だろう
だとするならば私はこの激しく荒々しい髪型で夜の街並みにうっとりしたり彼にキスをしたり寝顔が素敵だと伝えた事になる
大口を開いて食事をし、爆笑する姿なんて獣に育てられた人間なんていうニュースで取り上げられそうなレベルだ
更には彼の言葉に一丁前に拗ねたり照れたりしていたなんて滑稽過ぎて死にたくなった
ソースを拭い、髪を整えながら思う
(………………もっと早く言ってよ!!!!)
伝えるタイミングは沢山あった筈だ
私はこの髪型でメイドさんとも対面したのだ
恥の上塗りも良い所だ
ドスドスと足音をたてながらテーブルに戻る
「イルミさん!!!」
もっと早く教えてください、と続く筈だった言葉の前に
「可愛いよね、そういう所。」
なんて言われてしまえば簡単な私の怒りは彼方に消えて
「イルミさんおかしなセンスしてますね………」
「そう?」
余裕たっぷりな彼の隣におとなしく着席したのだった