ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第58章 彼と浴室
私が彼の世界にやって来てあと数日で2ヶ月が過ぎる
以前の私なら怯える事も無かった筈の時間経過だ
まだまだこれから沢山時間はあるのだと思えた筈なのに経験が其れを邪魔していた
…………どうか一秒でも長く彼と過ごしたい……………
ぼんやりしたまま食事は終わり私達はソファーに並び座っていた
何度目に成るか解らない溜息を付く私を横目に
「あ。」
「………?」
彼はわざとらしく声を上げた
突然発された声に彼を見詰めれば彼は「うっかり忘れる所だったよ」なんて言いながら立ち上がり仕事に出向く際に持ち歩いている黒のレザーバッグをガサゴソし始めた
背中を向けた彼へ視線を向ける事数秒、彼は悠々とした所作で再びソファーに腰を下ろすとその手に持っていた淡いピンク色の包みを私に手渡した
両手にすっぽりと収まるサイズの包みは可愛らしい白いリボンが掛かっている
「プレゼントだよ。」
なんて黒々とした瞳で私の様子を伺う視線を浴びながらもリボンを引くと中から現れたのは包み紙と同じに淡いピンクと白い色をした球体だった
「ありがとうございます……!!」
正直手の中のこれが何なのかははっきりと解らないが形状や香り、包み紙の雰囲気からバスソルトの類いだろうと解った
満面の笑みで真っ直ぐ彼を見詰められたのは
些細なプレゼントが、彼の気持ちが本当に嬉しかったからだ
彼はきっとプレゼントの存在を忘れて等いなかった筈だ
しかしぼんやりしたまま食事を取り尚も考え込む私にタイミングを見計らった挙げ句憂鬱な気分を変えようとしてくれたのだろう
「泡風呂入浴剤だよ、イチゴミルクの香り」
なんて言いながら飴玉の様な入浴剤を指先でつっついた彼に自然と頬が緩む
こんな入浴剤が売られたファンシーな店で沢山の商品の中から私の大好きなイチゴの香りを選んでくれたのだ
彼は本当に優しい人だ
優しさが心にじんわり染みて先程迄の不安は何処かに消えていた
「今日早速使います!」
「うん。」
ソファーに体重を預けて脚を組んだ彼は横目に私を見遣った後に何処か満足気な表情を浮かべた