ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第58章 彼と浴室
9月21日
陽が落ちるのが随分と早く成った
まだ17時代だというのに窓からは暗い空が覗きいつの間にか冷房は不要になっていた
窓を開けばカラリと乾いた涼しい風が吹き込み細やかに虫の声が秋の訪れを知らせている
時の流れに痛む胸は別れを恐れての事だった
彼は"俺に任せて"と私に話した
彼に任せる他、無力な私に成す術等無い
しかし彼が何も語らないという事はまだ明確な目処が立っていないという何よりの証拠だった
まだ解らない未来を見据えて怯える私は滑稽かもしれない
だけど彼との別れは其れだけ私を暗い奈落へ突き落とすのだ
「沙夜子、どうしたの。口に合わない?」
「……………いえ、我ながら絶品です!」
「………絶品。」
「はい、絶品です!!」
「…………美味しいよ。」
テーブルに隣り合って食事をしていた最中、ぼんやりフォークを持ち上げたまま私はフリーズしていたらしい
慌てて頬張った手料理は始めの頃より幾分か成長した様に思う
元々は外食が多いと話していた彼に温かい手料理をという気持ちが上達に繋がっているのかもしれない
………まぁ、外食と言っても高貴な家柄の御曹司なのだから私の手料理なんかより上等な物を食べているだろうけど
とりあえず栄養バランスを考えて愛情を沢山込めた手料理を今日も今日とてテーブルに並べた
彼の国の郷土料理のバリエーションは豊かで、ひとつずつ八百屋のおばさんに教わるのは楽しい
"これも沙夜子が作ったの?"なんて感心してくれる彼のリアクションも単純な私の背中を押していた
…………………と、まぁ……料理の事は置いておく…………