ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第57章 温かい時間
「自らで立ち上がる忍耐力は勿論だけどあの程度で泣き声を上げるなんて甘いにも程がある…………と俺は思うのだけど…………。」
「私にイルミさんのお家の基準は解りません………けど、私は抱き上げられたり、見守られたり両方やった気がします」
「…………そうなんだ。」
合わさった視線の先、何処か寂し気に揺れた瞳
「…………ねぇ沙夜子はどんな風に育ったの?教えてよ。」
彼は消え入りそうに儚い微笑みを浮かべた
彼が何を思い何を感じたのか私には解らない
只、淡白で強固な精神を持つ彼が時折見せる儚さは私の心臓をぎゅっと締め付けるのだ
「……………私は、実は赤ちゃんの時夜泣きが酷くて寝ない子やったらしいです」
「…………沙夜子が?」
「はい、あんまり寝ないから両親はまだ1ヶ月とかの私に薬を飲ませるかで本気で喧嘩したとか」
「………へぇ」
私は出来るだけ明るい声色で話した
幼稚園の先生が大好きだった事、絵本が大好きだった事、叱られて押し入れに閉じ込められた事、弟と秘密基地を作った話し
どれも平凡で何のオチも無い話しだが彼はずっと相槌を打って聞いてくれていた
気が付けば終わっていた番組はバラエティーへと変わり沢山の笑い声が聞こえる
そんな中で彼はぼんやりと天井を仰ぎ見て
「……………教えてくれてありがとう。」
なんて柔らかく言うものだから何だか泣きそうになった
「お腹減りました!ご飯にしましょう!」
「…………お菓子食べてたじゃん。」
「別腹です!一緒に作りましょ!」
「良いよ。」
私は家族の代わりには成れない、だけど
彼の中の温かい時間は私が作って行けたなら………なんて強く思った