ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第55章 小悪魔の誘惑
自身の思考に支配されて今を楽しめ無いなんて勿体無い………
私が馬鹿な事を考えていたせいで彼に心配まで掛けてしまった
頬を緩く叩きながら気を取り直す
……あれは素敵な思い出であって今じゃない………
今の私が意識して体温を上げる事では無いのだ、なんて思えば気持ちは少し落ち着いた………少しは………
「温泉!ほんまに秘境ですね!」
「そうだね。」
「イルミさんこの場所知ってました?」
「知らなかった。」
「イルミさんと来れて嬉しいです!」
「………うん。」
………………良かった
私は声を弾ませながら普段を取り戻していた
彼も特段色を漂わせるでも無くいつもと変わらないポーカーフェイス
そんな横顔に笑顔を向けていると彼は水面を見詰めたまま
「…………さっき何考えてたの?」
単調な呟きを落とした
瞬間ドキリと心音が跳ねる
私が先程迄考えていた事はとてもじゃないが彼には話せない
……………貴方に抱かれた日を思い出していました…………なんて口が裂けても言える筈が無い………
「…………えっと、」
なんとか誤魔化そうと焦りから唇を開いた私だったが言葉の続きは短い悲鳴へと変わった
私の腰に回された力強い腕に引き寄せられて途端に彼との距離が縮まる
水中の浮遊力からしなだれかかる様に逞しい胸板へ手を付く迄ほんの数秒
驚きから息を詰まらせて見上げた先わざとらしく細められた悪戯な視線に動けなくなった
「誰もいないね。」
あきらかに色を含んだ声が薄い唇から紡がれるのを私は只見詰めていた