ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第55章 小悪魔の誘惑
先程迄端でひっそりと湯を楽しんでいた彼が隣へやって来た、それだけの事にドキドキと心臓は煩く騒ぐ
別に肌が触れた訳でも無い
只彼は先程の私と同じ様に瞳を細めて海を眺めている
それだけなのだ
……………それだけなのに彼が近いという其れだけで簡単に高鳴る鼓動
纏め上げられた髪の後れ毛がうなじに揺れて白い肌が目に眩しい
最後に彼の素肌を見たのはベッドの中だった………なんて唐突に浮かび上がった記憶に私は慌てて水面へ視線を逸らした
何処か穏やかな表情を浮かべていた彼を見て私は一体何を考えているのだろう…………
決して湯のせいでは無く邪な考えが身体中を熱くする
甦った記憶を懸命にかき消そうにも
短く上がった吐息、滴る汗、深く求める様に私の身体をたぐり寄せる仕草………次々に浮かんでは勝手に脈が上がって行く
(……………あかん。……………何考えてんのよ……………温泉!!……今は温泉………………)
私は自身が思うより淫乱なのかもしれない……………
今は温泉だ
今は温泉を楽しむのだ…………
「………沙夜子?」
耳に響いた声に思い切り跳ねて水飛沫を上げる
「どうしたの、ぼーっとして。のぼせた?」
「………い、いえ」
どうやら彼の呼び掛けに反応を示さなかったらしい
無表情ながら心配を含んだ声色に顔をブンブン振れば
「そう。」
彼は短く呟いた