ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第48章 良き友人
9月4日
目覚めると隣に彼の姿は無く代わりにベッドサイドのチェストに小さなメモの置き手紙
『仕事に行ってくる。今夜は帰るから夕飯よろしく。』
彼の残す置き手紙はいつでも私の世界の文字で、その心遣いに胸が温かくなる
まだ覚醒し切らない身体をそのままベッドに沈めて彼が眠っていた枕に顔を埋めればほんのり自身とは違う香りが残っていて小さく心音が高鳴った
そしてやはり甦るのは特別な記憶
時間が経ち一人に成った事で私の脳内には鮮明な情景が浮かぶ様に成り一斉に全身が熱く成った
自分で自分の手を握り絞めてみても肌に触れてみても、やはり彼に触れられるのとは全く違っていて
唇や首筋にも彼の薄く色付いた唇が触れたのだと思えば上がる体温に数日経った今でも余韻に浸って幸せ気分でいる
その方が心も満たさていられるし浸れるだけ浸っていよう……。
彼は身体を重ねたからといって以前と何等変わらない
普段の距離感を保ち気紛れに戯れては離れて行き私を心臓発作へと追い込んでいる
致してしまったのだから勿論次もあるのだろうけど
今はまだ余韻に浸るのが精一杯で彼と触れ合う度に二度目が来たのかと動揺する私をからかっている様にも思えた
…………まぁ彼の意地悪は今に始まった事じゃない………
ぐるぐると鳴るお腹を擦りながら鼻歌を歌いキッチンに向かう
買い過ぎたピザが残っていた筈だ
開いた冷蔵庫の中には昨夜と変わらずピザがあり、一切れも減っていない様子から彼は食事を取らずに仕事へ向かったらしい
私の世界にいた頃の彼はしっかり朝食を食べ、どんなおかずでもお弁当を綺麗に空にして帰って来た
長身で筋肉質な身体のどこにも脂肪は見当たら無いのに白米をおかわりして、休日にはしっかりおやつ迄食べていて見掛けとは裏腹に良く食べる人だと思っていた
しかし此方の世界にやって来てから彼と生活を共にしていると朝食を取らない事が頻繁にある
休日なんかは一緒に食べているし以前と何等変わらないのだが
彼は朝食代わりにブラックコーヒーを飲むのだ
そして決まって飲み切らず少し残したまま出て行く