ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第35章 毒
彼が危険な職業である事は理解しているつもりだった
しかし怪我では無いにせよ目の前で苦しむ彼の姿は私に今一度その現実を突き付けた
「水飲みますか!」
「………うん」
正直毒の知識は微塵も無いが何かしなければとキッチンへ走った
水を注ぎ入れたグラスを手に彼の元へ急ぐ
無力で無知な自分が嫌に成った
彼が苦しんでいる姿を前に私は彼に何も出来ないのだと歯痒くなる
手渡したグラスが床に落下して派手に割れる音
彼の手から落ちたグラスに身体の力が入らないのだと理解すれば目に涙が浮かび始めた
……………毒は人を殺める………
「………ごめん」
乱れた呼吸の合間に紡がれた言葉に私は首を振る
いつも飄々としていて頼もしい彼があまりにも弱々しく呼吸を繰り返すので溢れそうになる涙を堪えて新しい水を彼に届けた
今度は取り零してしまわぬ様に浅い呼吸を吐く唇にグラスを傾ければ喉が動いて水が流れる
唇の端から流れ落ちる水をハンカチで拭い彼をじっと見詰めれば彼は自傷を含んだ笑みを浮かべた
「早く帰らなきゃと思ったんだけど…………情けない姿を見せるくらいなら一人でいるのが正解だったかな」
言いながら手首から針を取り出した彼は首筋に躊躇無く刺し入れる
「…………今夜は隣の部屋で休むよ」
途端に身体に力が入った様にソファーから腰を浮かせた彼の腕をぎゅっと掴んだ
「嫌です!!!何も出来ひんけど傍にいさせてください!!!」
肩越しに振り向いた彼は暫く間を置いてまたソファーに腰を降ろした
私は本当に何も出来ない
だけど傍にいる事くらい許して欲しかった