ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第29章 ドレスとワイン
ホテルの前で私を待っていたのは黒のタキシードに身を包んだ彼だった
長い髪を後ろに纏めて額を見せ、ネオンの街に佇む彼の姿は生きているのかさえも疑わしい程に美しく何処か冷たさを含む雰囲気は彼の無機質さに輪を掛けていた
私を視界に捕らえた彼は動けないでいる私の元へと悠々と歩みを進める
私だけを目指して真っ直ぐに足を運ぶ彼に世界が止まっているかの様な錯覚を起こした
私の前で立ち止まった彼を仰ぎ見れば深い黒の瞳に私が映る
「似合ってるよ。」
それは此方の台詞だが彼の姿に声が出ない
「はいこれ。」
彼が私に差し出したのはその手に持っていた大きな花束
真っ赤な薔薇だけの花束は50本はあろうかという大きな物で掛かっているリボンの色が黒というのが彼らしいと思った
「沙夜子」
名を呼ばれて見上げれば柔らかく微笑む彼に目を奪われる
「行こうか。」
私の手を自身の腕へと誘った彼に連れられるがままに私は車へと乗り込んだ
運転手さんに行き先を告げて車が発進する
どうやらホテルが用意した車の様でフカフカと心地好い座席に質の良さを感じる
車窓から流れる夜の街並みよりも私は隣の彼を只見詰めた