ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第163章 海を見に行く話
07月06日
10:38
窓ガラス越しに見える街は高いビル群が建ち並びスーツ姿の人々が交差点を流れる
冷房の効いた車内にはラジオの音が小さく鳴って忙しない街中とは隔離された空間を作っていた
良く磨かれた黒塗りの見るからに高級車を一体何処から盗って来たのか知らないけれど
彼は私を連れ出してくれたのだ
デートだと浮かれる私と余裕たっぷりな彼の姿はいつもの事で
目的地を聞けば単調な声が「海を見に行く。」と教えてくれた
都会のど真ん中から海迄のドライブデートなんて胸がキュンとして自然と笑みが溢れた時ミラー越しに目と目が合って
頬が紅をさす間抜けな姿から涼し気な瞳はすっと視線を反らした
「……そう言えば今朝のあれは何だったの。」
「………えっ……」
心地好く漂っていた沈黙を破った彼の声は気だるく響いて
チラリと盗み見れば彼は飄々とした態度のままハンドルを握っている
…………今朝ちょっとした騒動があったのだ
とは言え本当に些細な事なのだが彼の事をツラツラと書き綴った日記帳をテーブルに放置したままだった事を思い出し
慌てた私が少々取り乱したのだ……
彼はそんな私をただじっと眺めていただけで特に気に留める素振りも見せずにスルーした
勿論日記帳の中も見られていないのだが
彼の言う今朝とはその事に違いない
「……ちょっと大切な物を仕舞い忘れてまして、あはは……」
「ふーん。」
自分から尋ねておいて随分間の抜けた返事を返した彼はそれ以上何も言わなかった
………ただ、時折チラリと流される眼差しがいつもと違っている気がするのは私の気のせいだろうか