第160章 額の中の物語

…………そこで終わった物語



もう一度絵画を眺め見る


どういう気持ちでクルフトさんがこの絵を描き上げ、物語を添えたのかを想像する

行方不明のまま彼女は世界の何処にいたのか未だ見付かっていない


もしかしたら彼女は大好きな人と村を抜け出して駆け落ちでもしたのではないだろうか……

そして真実を伝える為に家族にこの絵とお話を残したのだとしたら

彼女の生涯は幸せだったのだろうか……



悪魔も女性も揃いの幸せそうな表情を浮かべた不思議な絵画はやはり初めと変わらず美しい物で


もしも私が村の娘なら


もしも彼が悪魔だったなら


……………私も…………なんて









「沙夜子も来てくれたもんね。」


「………え」




不意に耳元に落ちた囁きにドキリと脈を打った心臓

いつの間にかサラリと掬われた手に形の良い唇がちゅっと口付けを落として物語と重なる


私は其れをまるで夢を見ているみたいにフワフワと眺めていた



ドキドキと耳にもうるさい鼓動は彼の行動に熱を巡らせ

きっと馬鹿みたいな赤い顔で瞬きすらままならず固まってしまう


そんな最中私をまんまと異世界へ飛ばせた悪魔みたいな暗殺者は漆黒の瞳で私を射抜いて

その美しい顔でクスリと小さく笑うものだから私は暫く彫刻みたいに立ち尽くす他無かった







私にとっての美しい悪魔は彼に間違い無い