ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第160章 額の中の物語
ふぅと深く吐き出された息と前髪をかき上げたそこから無表情ながら少し緩んだ顔が覗く
彼はホテルにも戻らずずっと働き詰めだったのだ
きっと漸く訪れた休息
そう思えば彼のリラックスした雰囲気は私の胸を綻ばせた
「何か変わった事は?」
不意に向けられた気だるい瞳に私が映って頭の中で記憶を遡る
漫画を読んでテレビを見てゲームをして………………私の数日はまるで小学生の夏休みの様に平和で「うーん」なんて唸っている内にある事を思い出した
「…………あ!イルミさんが買ってきてくれたバスボムにオモチャが入ってて今密かにそれが楽しみなんです!」
別にわざわざ報告せずとも良い何の他愛もない事柄だが
「玩具?」
ポツリと漏らしてくりっと小首を傾げる彼の姿に私はリビングルームへと走っていた
ピンクに黄色、水色オレンジ、可愛くてカラフルなバスボムの中には小さな動物の玩具が入っていた
留守の間も私が寂しくないように彼が用意してくれた其れは憂鬱になってしまうバスタイムを楽しいものにしてくれたのだ
私はその小さな動物達を手に彼の元へ走った
毎晩ひとつずつ増える可愛い動物に今日は一体どんな動物が出て来るのだろう……なんてワクワクして
「これです!溶けたらこれが出てくるんですよ!」
彼の隣の開いたスペースに勢い良く腰掛けて彼に手の中の物を見せれば思っていた反応と違うものが返って来た
「あぁ、それか。」
「え……?」
彼は全く興味が無いだろうと思っていた
私にバスボムを渡した時はどんなのを何個買ったか覚えて無いから適当に使って、なんて言っていたのに
しかし彼はあたかも知っていた様に呟いたのだ
ガラクタだと淡々と悪態を付くか興味無さ気にぼんやり聞いている姿を思い浮かべていた私にしてみれば良い意味で肩透かしで
「それね、動物だから沙夜子が喜ぶだろうと思ったんだよ。」
長い指先でちょん、とバスボムのおまけを突っつきながら何処か穏やかに言われてしまえば途端に頬が熱を帯びて
「大当たりですよイルミさん」
なんて真っ赤な顔で笑った私だがなんだか幸せで嬉しくて泣きそうだった