ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第159章 夏の味のヒトコマ
「…………はい食べたいです………食べます!」
感動と共に温かな気持ちが身体を巡り力強く立ち上がった私をやんわり座らせた彼は颯爽とパステルカラーの販売車へと歩いて行く
………何と言うか………色々な感情で訳が解らないがとにかく感動している
ここで泣いてしまっては情緒不安定だが端の目等かまうものか
あの日見たかき氷屋さん
ずっと探していた愛しの彼が私の為にかき氷を買っている………
私は信じられない様な現実を只眺めて
ピンク色のかき氷をひとつだけ手に持った彼が隣に座るまでずっと夢を見ている様だった
空はすっかり夏の青さで大きくて真っ白な入道雲が浮かぶ
サラリと肩を流れた黒い髪
「ここのかき氷マズイよ。」
なんて何処か懐かしむ様に瞳を細めた彼は目眩を覚える悪戯な笑みを浮かべて私が一口目に掬っていたかき氷をパクリと食べた
「やっぱりマズイ。」
台詞とは似付かない楽し気な声音
「でも食べさせたかったんだ。」
只見惚れて体温を上げる身体に紙の器が汗をかいて滴を落とした
「い、いただきます……」
柔らかい表情のまま私を見据える彼にドキドキと初めと変わらない心音を鳴らして
プラスチックのスプーンから冷たく広がる夏の味
ジャリジャリと音を立てた氷からは私の世界と同じイチゴシロップの味がした
……………食べさせたかった…………
彼の言葉が身体に染みる
互いに会えなかったあの日々
今どんな気持ちで私に微笑み掛けているのだろう
「美味しいですよイルミさん!」
「沙夜子の所で食べたかき氷の方が美味しかった。」
「あー!フワフワかき氷かぁ!」
「そうそれ。」
「…………イルミさんもう食べないんですか……?」
「要らない…………苺は全部沙夜子にあげるよ」
なんてポツリと漏らした彼はその瞳に私の姿を映しながらも何処か遠くを見ている様で
その声色や仕草から過去の彼が確かに此処を訪れたのだろうと感じた
そして注がれる穏やかな眼差しにその時彼の胸に私の存在があったのかな……なんて
二人で訪れるのは初めてなのに二人が知っていた噴水の広場は賑やかな雑踏で私達を包んだ