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ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編

第158章 ヘッドライトが照らす道へ








「洗い物しなくて良いよ。」


「…………あぁ……そうですね……」



この部屋から新たに持ち出す物は何もない


ズキズキと胸が痛い


何もかも真新しいのに懐かしい風を感じた全てとお別れだなんて

チラリと見えたポットに嬉しかったなぁなんて思えば今にも泣き出してしまいそうで


だけど私は最後の時まで目一杯彼と過ごしたいから此処には居られないのだ

彼が一緒じゃなければ何の意味も無い


楽しく増えた思い出の数だけ近付く別れの日


悲しいと、辛いと知っていてそれでも私は彼との時間を選んだ



…………あとどれだけの景色を彼と眺められるのだろう…………



さよならするアパートの一室から彼との未来を考えてしまってどうしようも無く胸が苦しい



テレビから流れていたバラエティー番組が消されてすっかり静けさを漂わせた部屋で私達は出発の準備をして



行きとは違う車の後部座席で荷物に埋もれた私はぼんやりとアパートを仰ぎ見た


彼は私を車に残すと再度部屋に戻ってしまって


きっと私達が過ごした痕跡を消しているのだろう


淡いガス灯の光が螺旋階段のステンドグラスを優しく浮かべる静かな夜



「お待たせ。」


小さな声と共に掛かったエンジン


煌々とヘッドライトが道の先を照らして車は真っ直ぐに走り出した




「……イルミさん」


「何。」


「金ヅチ…………」




父に貰って異世界へやって来た金ヅチ

私は其れをあの部屋にわざと置いて来ていた


昔々の宮大工さんがわざと自分の墨ツボを建造物の一部に残すのだと思い出したのだ

それを見付けるのは何百年経った現代の宮大工さん……なんて粋な事


あの部屋にはまだまだ壁や床にちょっとした反り返りが存在していて危険地帯だらけだった

次にあの部屋に住む人にもきっと役に立つ筈だ


宮大工さんのそれとは違うけれど何かを残していたくて次に繋いだ金ヅチ



「あれならクローゼットに置いてきた。」



星が降って落ちそうな夜


次はどんな場所で目覚めるのだろうなんてぼんやり思った








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