ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第158章 ヘッドライトが照らす道へ
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詳しくは無いが山菜のアク抜きには一晩掛かると話を聞いた事があったが此方の世界では二時間半程との事で
彼のOKの合図と共にバラエティー観賞を切り上げてキッチンへやって来た
彼も珍しく手伝ってくれるスタンスらしく緩く長髪を纏めた見目麗しい姿で隣に立っている
キッチンペーパーで水気を拭き取り熱した油に投入すれば食欲を掻き立てる音が弾けた
「どれくらい火通せば良いんでしょ?」
「さぁ。」
「楽しみですね!新鮮ですよ!」
経緯はともあれ採れたてに違いなく何だか贅沢な気分だ
思わず鼻歌なんて歌いながら見上げればいつもより輪郭がはっきりと見て取れる美しい横顔が伏し目がちに鍋を見詰めていてドキリと高鳴る心臓
「もう良いんじゃない。」
「……えっ」
「……出来てるんじゃない。」
「あ、はい!」
白く透き通る肌に吸い込まれる様に見惚れる内にピチピチと小さな音を鳴らした鍋から慌てて山菜を引き上げた
本当に出来ているのか半信半疑の私達は先ず揚げたて熱々の山菜を食べてみる事にした
サクリと歯触り良く湯気が上がり程好く苦味の抜けた特有の風味が鼻を抜けて想像よりも絶品で
「あっつ、うまぁ……」
なんて間抜けに漏らした後に私は次々に山菜を揚げ続けた
彼の目利きは確かだった
彼が出来上がったと言った時間はおよそ1分半、このペースだとテーブルに並ぶのは直ぐだ
「あー……お米と食べたいですねぇ~」
隣で主食になるバケットを切り分けてくれた彼は
「米は無い。」
なんて素っ気なくキッチンを離れた
まぁ………本当に無いから仕方がない…………
ギシリと軋んだ座椅子の音に彼が夕飯を待っている気配を感じる
揚げたて山菜には塩とオリーブオイルはどうだろう!なんて考えながらも私は軽い足取りでテーブルへ向かった
私達がこのアパートで最後に取る夕食はバケットと山菜
贅沢なのか質素なのかよくわからないが小さな冷蔵庫の中身はすっかり空になっていた
「いただきます。」
「いただきます!」
美味しくて楽しい幸せな夕飯
彼と買い揃えた家具に囲まれた小さなアパートでの平穏な生活が終わってしまうのだ