ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第157章 キスの妄想は泡に消える
「………わぁ!綺麗………!」
私達の目の前に表れたのは深緑を水面に映して広がる湖だったのだ
山々がぐるりと囲み込む場所にひっそり隠れていたと言うには広く
そして私達以外に誰もいない静けさは爽やかな風と共に心地好さを運ぶ
しかし誰も寄り付かない訳では無いらしく木製の桟橋が視界の端に見えて私は取り立った目的も無いままに歩み出していた
私から数歩遅れて背後を歩く彼を確認しながらも桟橋へ踏み出せば木材が軋む小さな音が鳴る
其所から湖面を覗けば澄んだ水は透き通り小魚の姿が見えた
見渡せばキラキラと太陽を反射する湖は夏の日射しに涼やかに輝きワクワクと弾む胸
「見てください!魚!」
「うん。」
伸びた桟橋を行き止まりまで歩いた時
「乗る?」
彼はチラリと目線で促しながら小首を傾げた
彼の大きな瞳につられて視線を向ければ見えたのは小さな木製の手漕ぎボート
桟橋に三艘並んだ小舟はきっと村人の物で観光に使われる物では無いのだろうけど……
素敵なお誘いを前に頷きかけてそんな事を考えていた私を他所にじっと様子を伺っていた彼は何の躊躇いも無く小舟に乗り込んだ
自身を見上げる彼の姿が新鮮でぼんやり見詰めている内に真っ直ぐに伸ばされた大きな手
水面の反射に目を細めた彼までもがキラキラと輝いて見えて
「ほら、行くよ。」
無機質な唇が柔らかく紡げば誘われるまま手を取ってしまう
ドキドキと高鳴る胸
触れ合った手は力強く彼の元へと引かれてあっという間に私は小舟に揺られていた
……………この世の中であんなに素敵な彼に誘われて断れる女性なんて存在するのだろうか……
チャプチャプと水を割り進むオールの音に耳を傾けながら流れる湖面をうっとりと眺める
無断でお借りしてしまった事は心苦しいがそう言えば彼は車もしょっちゅう盗難しているのだし……
そんな事よりも大好きな人とデートらしいベタな展開に発展している今この時が幸せで仕方がない