ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第157章 キスの妄想は泡に消える
「………何が残念なんですか……?」
土を踏み締める音とそよそよ緑が揺れる沈黙の後
「今度首輪でも買ってやろうかと思ったんだけどなー。」
単調な声音とは似ても似付かない変態発言が飛び出して私は危うく転びそうになった
…………こ、この人は何を考えているんだ…………
爽やかな森林の中で突然…………
人間に首輪だなんてド変態にも程がある……ッ
…………変態なのかな……とは思っていたがまさかそんな趣味まで持っていたとは………
「い、いっ要りませんよそんなんっ!!」
酷く動揺した私はきっと真っ赤な顔をしていて慌てて発した声は馬鹿みたいに上づっていたのだが
彼は尚も前進方向を見据えたまま涼しい顔で唇を開いた
「……それもそうだね、鈴が付いたのひとつ持ってるし充分だよね。」
「?!」
「ハロウィンのコスプレ。」
小鳥の囀ずりが響くのどかな散歩道で唐突に蘇る淫靡な夜の記憶
…………確かに私はあの日猫のコスプレをしたけれどあの衣装はもう手元に無い
すなわち首輪だって既に彼の手により処分されている筈だ
…………それを未だ持っている…………?!?!?!
…………彼は一体何を考えて……………
途端に膨れ上がる羞恥に浮かぶ汗
何と返せば良いのやら言葉を見付けられずに口をパクパクさせる他無く
そんな私に再び注がれた眼差しは何とも悪戯なものでほんの冗談だったのだと物語った
またからかわれたのだと気付いた時には何処か満足気にクスリと笑われて
「沙夜子は本当に馬鹿だね。」
なんて楽し気に言われてしまえば熱い顔を隠す様に俯く事しか出来なかった
彼の意地悪はコミュニケーション………それは間違いない
彼にとっては他愛ないほんの戯れ……
だなんて気付いていながらまんまとしてやられるのだから世話無い
…………きっと私はこれからも彼の意地悪に太刀打ち出来ないのだろう………いや、出来る気がしない
なんて熱い頬を冷ます様に地面ばかり見詰め歩いてどれだけ経ったのか
曲がりくねった狭い歩道は一体何処に続いているのだろう……とぼんやり考えている内に突然開けた場所に出て私は思わず歓声を上げた