ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第157章 キスの妄想は泡に消える
一人散策した事でデートスポットらしい場所なんてこの村には無いと知っているけれどそんな事は関係無くて
私達に残された僅かな時間の中でひとつでも素敵な思い出を残したいと思うのは必然だ
勿論部屋で二人きりのんびり過ごすのも素敵な時間に違いないけれど
いつか人生を振り返った時にあの時楽しかったな、と思い出せる確かな形として私はどうしてもデートがしたかったのだ
しかし問題は何も無い村で何をするか……と言う事で………
私は無い頭を捻って考えたのだが何も浮かばず
至った結論は彼と一緒なら何をするかなんて関係無く楽しい、だった
そこからの行動は早く「デートしてください」の一言で見事彼を外に誘い出した私だがやはり宛は無くただ歩き続ける内に森の中を進んでいる
とは言え闇雲に獣道を進んでいる訳では無く舗装された散歩道を歩いているのだ
木がトンネルの様に枝を伸ばした其所は木漏れ日が射す爽やかな歩道でただ歩いているだけでも胸が弾み、思わず深呼吸なんてしてみる
私は何気無いこの時だけでワクワクだが………彼はどうだろうかとチラリと盗み見れば通常運転のポーカーフェイスが伺えた
「イルミさん!」
愛しい名を呼べば此方を向いた大きな瞳に笑みが漏れる
「楽しいですね!!」
ワクワクをそのままに弾んだ私の声とは裏腹な溜息
「まだ何もしてないじゃん。」
なんて素っ気なく呟きながらも心無し綻んだ横顔に胸が温かくなる
「私はイルミさんとお散歩出来るだけで楽しいんです!」
「沙夜子の発想は犬のそれだね。」
仮にも奥さんに対して全くの無表情でサラリと酷い言を放った彼だが近くで接している内にこれも彼のコミュニケーション手段なのだと知っている
「違います!乙女心なんです!」
「それ本気で言ってる?」
ふと意地悪に歪んだ口元と私の反応を伺う眼差し
「それ以外に何があるんですか!犬心なんか私にはわかりません!」
しかし私が反論した途端に彼は興味が失せた様に前を向いて小さく呟いた
「ふーん、残念。」