ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第157章 キスの妄想は泡に消える
06月18日
08:12
夢が途切れて瞼を開けば古ぼけた天井が視界に映る
じわりと暑さを感じるけれどブランケットは既にベッドから落下していて私は直ぐ傍に感じる体温へ視線を落とした
窮屈なシングルベッドに二人で身を寄せているのだから当然彼との距離は抜群に近く
静かな寝息を立てる無防備な素顔にドキリと心臓が高鳴る
仕事を終えた後にも雑務が残っているから、と数日留守を続けた彼が帰宅したのは昨晩の事で
いつでも見目麗しい姿は数日会えないだけで一層輝きが増して見える
印象的な黒い瞳は長い睫毛を伏せて影を落とし、薄く色付いた唇がむにゃっと無意識に動かされるあどけない姿は最早犯罪なのだが
長い脚や腕は意図せず緩く私を抱き抱える様に絡められていて…………もう……………朝から心臓に悪い………ッ
(天国かな………ここ…………)
じっと彼を見詰めてニヤニヤと頬を緩める至極のスーパー胸キュンタイムをどれだけ過ごしたのかは定かでは無いけれど
飽きるなんて事は微塵も無く幸福に包まれていると不意にゆるゆると持ち上がった瞼から漆黒が覗いて目が合った
「…………」
「…………。」
私達は正式では無いものの事実上夫婦だ
薬指には変わらず彼から贈られた指輪が輝いている
しかし未だ視線が交わるそれだけで赤面し、緊張から押し黙る私を寝惚け眼でぼんやり眺めた彼は「おはよう」と、少し掠れた囁きを落としてから悠々と私を解放した
「……おはようございます」
未だドキドキしたまま紡いだ言葉にチラリと流された眼差し
「今朝は随分早起きだね。」
なんて言いながらベッドを抜けた彼はサラリと流れた艶やかな黒髪を鬱陶しそうにかき上げてから伸びをした
「……たまたまです」