ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第156章 ある日の二人
彼は出会ったその時から………いや、彼は生まれたその時から暗殺者でそれは今もこの先も変わらない
そんな事は全部わかっているし彼のゾクリと背筋を凍らせる危な気な瞳を嫌いかと聞かれれば真逆だと即答するけれど
私は今彼と離れなければいけない事がどうしようも無く悲しかった
わかっている、これは我が儘だ
彼はいつでも出来る限りの時間と労力、お金を使って私と過ごす時を作ってくれているし
多忙な仕事と両立してくれている気遣いは染々と感じている
だけど今の私は小さな子供が大好きなぬいぐるみを突然取り上げられた様な悲しい気持ちになっていた
「ミルから連絡が来た。」
彼は普段見せる何を考えているかわからない無表情のままベッドから抜け出して
私は小さく返事を返した後にぎゅっとブランケットを抱き寄せた
いつも彼が出て行く時は寂しいけれどこの朝は無性に寂しかった
我が儘だとわかっているから口にしない事に必死で
身支度を手早く整えた彼が「それじゃ、行ってくるよ。」と背中を向けるまで私はずっとベッドでくるまったままだった
「待ってください!!ぐぁあ"ッ!!」
その目に触れぬ様にブランケットを抱き抱えたままベッドを飛び出して私は彼を引き留めようとした訳では無かったのだが
何かに足の小指を強打して場違いな台詞と共に傾く身体
……………私はただ彼にいってらっしゃいを言いたかっただけなのに…………
背後で起こったアクシデントにも見事な瞬発力を発揮した彼は私を抱き止めながら大きな溜息を付いた
いってらっしゃいが喉の奥から出て来ない……………
「本当、そそっかしい。」
なんて呆れ顔を向ける彼だが、しかし私は涙目で見詰め返す事しか出来なかった
猛烈に痛かったのだ
とにかく息が出来ないくらいには痛かった
「目処が付いたら連絡する、行ってくるよ。」
痛みに悶える私を置き去りにクールに去って行く彼は扉が閉まるその瞬間に
「ちゃんと手当てしときな、爪取れてるよ。」とサラリと残して颯爽と消えた