ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第154章 なんでもない日
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翌日
目を覚ますと私は何故かベッドの上で横になっていた
ぼんやりと覚醒し切らない頭に疑問符を浮かべながら辺りを見渡せば綺麗に開脚をして柔軟する彼の姿が映った
「………おはようございます」
「おはよう。」
肩越しに振り向いた彼のパッチリ開いた瞳から寝起きとは程遠いのだと知る
Tシャツにジャージ姿と何ともラフな格好でしなやかな動作を繰り返す彼をぼんやりと眺める幸せな時間
そう言えば近頃彼のストレッチしている姿なんて見掛けなかった
「イルミさんいつから起きてるんですか?」
「二時間くらい前かな。」
網戸にしたベランダから初夏の風がカーテンを揺らして淡い光に照された黒髪がサラリと肩から流れた
「……………あの、このベッド……」
「買ってきた。」
「ありがとうございます」
「そのサイズしか無かったけどね。」
言われてのそのそと上体を起こして見ればシングルサイズのベッドで
「窮屈だけど無いよりマシでしょ。」
なんて涼しい顔で言う彼に笑みが漏れる
早起きしてベッドを購入してくれていた事もめちゃくちゃ素敵だが
私とならこんなに狭いベッドでも一緒に眠ってくれるのか……と染々感激したのだ
思わず嬉しくなって真新しい枕に倒れ込み顔を埋める
今の私はきっと馬鹿みたいにニヤニヤしているだろう
朝から襲う胸キュンに一頻り浸って幸福の溜息を漏らす頃カチャカチャと聞き馴染みのある物音を拾って目を向ければ
小さなテーブルに仕事道具の針を広げて座椅子に腰を下ろした彼の姿にドキリと心音が鳴った
長い指に針をつまみ丁寧に手入れする仕草は彼が几帳面である事を表す光景で
チラリと此方に視線を流した彼が
「お腹すいた。」
なんて言うものだから私の目には古びた懐かしい部屋が見えて走馬灯の様に彼と過ごした日々が駆け抜けた
この世界にやって来て彼は仕事道具は愚か暗殺に関わる物を極力私から遠ざけているけれど
今目の前に映る光景は酷く懐かしく過去に通り過ぎた日々の中の日常にあったのだと思い出させたのだ
「朝ご飯にしましょう!」
「もう昼だよ。」