ここは彼の世界です【HUNTER×HUNTER】続編
第154章 なんでもない日
そしてやはり、そうと決まれば彼は潔い人だ
何も言わず無表情にごろんと転がるものだから深夜テンションも入り結構笑ってしまった
真っ黒な大きな瞳をそのままに横たわった彼はまるでお人形さんみたいだったのだ
暗く灯りを消した部屋で二人フローリングに寝転びながらも思い出し笑いを堪えれば
「うるさい。」
彼は少し不機嫌な呟きを落とした後に強引に私を抱き寄せた
不意打ちで近付いた距離に先程までの笑顔は綺麗に消えてバクバクと心音が高鳴る
お風呂上がりで同じ石鹸を使っている筈なのにほんのり鼻を掠める彼の香り
普段に無い近い距離で瞬きに満たず細められた瞳に射抜かれてしまえば呼吸すらもままならず
「ようやく静かになったね。」
余裕たっぷりな声すらも擽ったく感じて僅かに震えた肩を彼の指先が優しく撫で上げた
その間にも近く寄せられる端正な顔
キスの予感に瞼をぎゅっと閉じれば
クスリと耳元に落ちた悪戯な笑み
「沙夜子は馬鹿だね。」
普段より少し掠れた囁きの後、ちゅっと音を立てたキスは耳朶に落とされて
カッと全身が熱を帯びる頃彼は私を解放し、当初の位置に戻っていた
………彼は多分私を黙らせる為にちょっとした戯れのつもりだったのだろうけど
私からしてみればこの先……なんて簡単に翻弄されてドキドキと鼓動が騒いで仕方ない
耳元で囁き、キスするなんて……………そんなのズルい……………
ぼんやり天井を見ている彼をチラリと盗み見ながら未だ動悸に近い高鳴りに深い息を吐き出せば
彼の流し目と視線が交わって今度こそ心臓が口から飛び出しそうになった
只でさえ彼は美しいのだ
それなのに無防備とも取れる状況で気の抜けた何とも妖艶な表情を見せられては心臓が持たない
なんて、ちょっとした仕草ですらめちゃくちゃ意識をしている私だが
「おやすみ、沙夜子。」
彼に微笑まれてしまえば
「……おやすみなさい」
と、返す他無く
長い睫毛を伏せて眠りに入る愛しい彼の姿を私は暫く見詰めていた