第150章 本当の笑顔

持て余した時間に不安ばかりが膨らんで気を紛らわせる為に作った夕飯は遠の昔にテーブルに並んでラップを被っていた


彼はまた私の手料理を食べてくれるだろうか………


そんな事ばかり考えてはフライパンを振るったけど今夜もまた彼と夕飯を迎えられたのだ



当たり前でいて決して当たり前じゃない今



せっかくなら綺麗な姿で出迎え様と気合いを入れてメイクしたのに今の私は泣いているのか笑っているのか何とも情けない顔をしているだろう


顔を見せない様に立ち上がり手早く料理を拐ってキッチンへ逃げ込めば

彼は早くもテーブルに付いて夕飯を待っている様だった



私は知っている


彼は普段物音ひとつ立てず静かな所作をしているのに私にアピールする時は敢えて物音で教えてくれている事


チラリと様子を伺えば背中を向けている彼に今の内に涙を拭えと言われた気がして口から漏れたのは馬鹿みたいに弾んだ声だった



「ちょっと温め直します！」


「うん。」




優しくて大好きな人



そう思えば思うほど身体中に幸福が巡ってゴシゴシと涙を拭う



勝負に私は勝ったのだ




彼は間違い無く私を愛してくれているのだ





勝利の狼煙の様に上がる湯気で賑やかなダイニングテーブルで彼と向かい合う


彼は何も知らないけれど彼が証明してくれた