第17章 利己主義
「ちゃんも、此処に来たのね」
私と鞠さん、そして光秀さんの三つ巴。
声を出すのも憚られる雰囲気、その均衡を破ったのは鞠さんだった。
よく考えたら、私にとって思い出深いこの場所は…鞠さんにとってもそうなのだ、と漸く気付く。
「鞠、供もつけず来たのか」
「ええ、京の街を散策したいと言って。
勿論、宿には待たせてますけど」
光秀さんが焦ったように声を掛けるも、鞠さんは…
私が思い描くとおりの、柔らかい笑みを浮かべている。
織田家のお姫様、としての風格すら感じられる振る舞い。
そしてその表情そのまま、此方を向いた。
「私の大事な場所が、ちゃんにも受け継がれていて嬉しいわ」
「…毎月、月初には皆で此処に来てましたもんね」
その空気を汲んで、私も普段通り、を心掛けるも。
私が居なくなってからも?と聞かれ、流石に息を呑む…
「そうですね、来てましたよ」
「そうなの…」
主任と二人で?
そんな風に続いてもきっとおかしくない、消えていった語尾を想像する。
鞠さんは笑みを貼りつけたまま、また光秀さんの方に向き直った。