第3章 まだまだだね
きっとそれは時間にしてみればほんの5分くらいだった。
リョーマに触れて
ここにいる存在を焼き付けるように
何度も何度もリョーマの名前を呼んだ。
芝生の上に腰を下ろしたリョーマをゆっくりと
背後から抱きしめてはリョーマに問う。
「……なんで、ここにいたの?」
リョーマは両膝を立て、その上に肘を乗せわずかに横を向く。
「俺が会いたかったから。賭けだよ」
「……勝手っていうの、そういうの、私が見送りいかないって言ったら、いいよ別にってリョーマ、言ったのに」
「言ったよ。けど 来ると思った」
その言葉に、はリョーマから手を離して後ろを向いた。
「……今日を、悲しい水曜日にしたくなかったのに」
こみあげる涙。ポタポタと雫が落ちていく。
アメリカなんて
遠すぎる。
膝をついて顔を手で覆った。
「」
リョーマの声には嗚咽を堪えて声を出す。
「大丈夫、もう大丈夫」
何が大丈夫なのかわからない。
大丈夫じゃない。
苦しい、悲しい、辛い
全てのマイナスの言葉が頭の中で響いてる。
リョーマはそのまま寝そべり、見上げた先で顔を覆って泣いているに手を伸ばした。
「強がり」
はどこかに力をいれた。
リョーマの声を聞き逃さないために、どこかに力を入れなければならない気がしたから。
「素直になれば」
それを聞いた途端、は入れなければならないはずの力が抜けてその場にぺたんと座ってしまった。
距離が近くなったリョーマ。
覆った手を顔から離すと、寝そべったリョーマが見ている。
その顔は、本当に大好きなリョーマだった。
「行かないで……!側にいて……ここにいて……行っちゃやだよ……!」
はリョーマの胸に顔を埋めてそれを言い続けた。
少し硬い制服が湿っていく。