第5章 あむぬい【なんでもない話/突発番外編】
自宅に帰って来れば、キッチンから音がして。
玄関に並ぶ靴で零が、来ていることがわかった。
「零、珍しいね。こんな時間に」
「今日は何もなかったので」
「そっか、お疲れ様。おかえりなさい」
一週間会えなくても、本庁でのすれ違いでも…お互いの存在を感じていれたから前ほど寂しくなかった。
「……帰って来たのは〇〇ですから、〇〇がただいま、ですよ?」
ところでところで、と零の手荷物を探す。
零が私の視線に気づいてため息をついた。
「ぬいぐるみなら持って来てませんよ」
「なんで!届けて来てくれたんじゃなかったの!?」
「どういう思考の持ち主ですか」
貴女には渡しません、と言われて。
納得いかない。
「でも零、あれ使うの?」
「押入れですね」
「私の家だとずっとベッドの中に入れるよ?」
「絶対に嫌です」
なんで。
「車の鍵借りる」
「…だめです」
直行してきたなら、車の中だと思って零の車の鍵を取れば後ろから抱きしめられた。
「…あのですね………抱きしめたいなら、僕に言ってください」
振り返りたかったのに零の手で目隠しをされた。
「もしかしなくても妬いたの?」
「…うるさい」
「え、なんで…?え?」
頬が緩む。
「零、可愛い…っ」
ぬいぐるみに?
なんで?
「一週間…触れてません」
「……今、触れてる」
「久しぶりに会った〇〇が、あんなに幸せそうに抱きしめてるものへ嫉妬しないわけないですよ」
何を言ってるのか、もうわけがわからないくらい…
「零、可愛いなぁ…」
心の中で言ったつもりだったのに、口に出ていたせいで真っ黒な笑顔で押し倒された。
「ぬいぐるみと僕と、どちらが欲しいですか」
「…ぬいぐるみって言ったら?」
零が可愛いから、そんな意地悪を言えばキスをされて。
愛おしい貴方。
「嘘だよ、零が欲しい」
「当然です」
くだらない嫉妬する人だとは思わなかったから、笑ってしまって。
それでもやっぱり…あのぬいぐるみは欲しいから、今度零の部屋に行ったら狙おうと心に決めて。
零が私を求めてくるのが嬉しくて、そこに集中することにした。
【なんでもない話終わり】