第3章 恋の思い出/景光【思い付き突発番外編】
案の定。
いつの間にか名前で呼び合って。
俺との話も、降谷の話が多くなって。
あいつが意地悪するだとか、今日は優しかったとか。
…心苦しい時もあったけど、それよりも笑っている彼女の姿が嬉しくて。
「告白しねぇの?」
げふっ、と飲んでいた酒を噴き出して。
「…は?」
「〇〇、好きなんだろ」
「……関係ないだろ」
「俺も好きだって言っても?」
あまりに変わらない関係に、挑発したくなって。
「だめだ」
言葉より先に感情が溢れてきたような言葉に、笑って。
「冗談だよ」
「…なっ」
からかうようになったのは、多分自分の気持ちを隠そうとしたから。
「ねぇヒロくん、映画のチケットもらったんだけど一緒に行かない?」
ある日。
〇〇が松田にもらったと言って映画のチケットをみせてきて。
「みんな誘ったんだけどだめって」
一番に声をかけられていたら、その時に俺はどうしてたんだろうか。
〇〇の中では、もう自分が友達でしかないことが伝わってしまって。
「もっと違う人誘うべき人がいるだろ」
思い当たらないって顔をされて、小さくため息を吐いて。頭をくしゃくしゃに撫でてやった。
途中、資料室に向かう零に〇〇が映画行く相手を探していると伝えれば走って向かって。
…中学生のような恋を、二人がしているから。
あまりにも可愛くなって、伊達や松田、萩原と話題にしては盛り上がった。
そうやって、気持ちを静かに流していけば、〇〇への感情はいつしか【妹】に対してのようなものに近くなった。
初夜のために張り切ってる降谷や、迎えた翌日の幸せそうな〇〇の笑顔を見て
こいつらは一生そばにいるんだろうなって
どこかで、そう思っていた。
別れようと思っている、と本人に伝える前に降谷は俺を呼び出した。
理由はわかっていた。
【警察庁警備局警備企画課】
…俺と降谷の配属先。
「決めたんだな」
「…ああ」
「そっか、泣くかもな」
「……泣かせるかもな」
同期で飲むときには零が大好きだって、笑うようになった。
降谷の隣にいると幸せそうだった。
「きついな」
「…きつい」
それでも、甘えはいらなかった。
〇〇に別れを告げたのは、翌日から新しい配属先に代わるとき。
配属先を伝えずに…あいつらは別れた。
【fin】