第22章 キスの日/5月23日の花麒麟※沖矢(赤井)夢
ふと、その花を見かけた。
赤く美しいその花の見栄えから隠れるように棘を持つその花。
「逆境に耐えるという花言葉があるんですよ」
花屋の店員さんと話して、そんなことを聞いた。
零に、と思ってその鉢植えを手にして帰宅の途中に思い出した。
「……零は赤アレルギーじゃん」
小さな花。
赤い花。
「あの人に押し付けようかな」
そう。
あの人。
零の赤アレルギーの原因。
沖矢さんこと、赤井さんに。
【5月23日の花麒麟】
ピンポン、と呼び鈴を鳴らす。
「はい……おや、お久しぶりですね」
「はい、お久しぶりです」
少しお待ちくださいと言われてから暫く待てば、糸目のその微笑み。
「お茶入れますよ」
「遠慮します」
これ渡したかっただけなんで、と鉢植えを押し付けた。
「これは?」
「れ…透さんに、と思ったんですがあの人が誰かさんのせいで赤アレルギーだったの忘れて思い出したので、元凶の方にお裾分けです」
「はて?」
なんのことでしょう、と首をわざとらしく傾げられれば睨むような視線を向けてしまった私は悪くない。
「そんなわけで受け取ってください」
「いいですが、花を育てたことはありませんよ?」
「そんな気がしてました」
そして押し付けるのはメモ用紙。
「ちゃんと育ててくださいね」
では、とくるりと背を向けて逃げようとすれば、「あ、そうでした」と力強く腰を掴むのはやめてほしい。
「美味しいウイスキーが手に入ったんですよ。〝バーボン〟」
「……お酒で釣れると思ってませんか?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
むしろ、と触る腰に当てる手つきが。
「顔が赤いですね」
「誰かさんのせいですね!!」
その手をどけてください、と払えばくくっと笑う声。
腰に回した手が解かれ、本当にこの人の触り方は後を引くから苦手だと、腰に疼く何度ような感覚を覚えてはため息をつく。
「帰りますよ」
「そういえば、この花の名前は?」
「……花麒麟。〝逆行に耐える〟という花言葉があるんですよ」
「ほー。では、君はこれを知らないのか」
低い、声。
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