第20章 一度きりのクリスマス。【警察学校組/オール+降谷夢】
そんな昔話を思いだしてしまう時期になったなと思いながら、営業時間を過ぎたポアロの扉を開いた。
「透さん、お疲れ様」
「お疲れ様です、〇〇」
「もう、周りはクリスマスだねぇ」
「そうですね」
カウンターにどうぞ、と椅子を引かれて腰を下ろした。
「ケーキをいくつか試食してほしいんですが」
「嬉しいけど、この時間は太ります」
「ダイエットすればいいじゃないですか」
ダイエット。
その言葉に睨めば飾りのような笑顔を向けられる。
…まあ、いいけど。
「透さん、今年のクリスマスの予定は?」
「ポアロですよ」
「私も探偵事務所です」
みんなでクリスマス会するんだけど、と付け加えれば訴えるような視線。その視線には気づかないふりをする。
「“また”サンタのコスプレでもされるんですか?」
肩肘をついて、揶揄い口調の透さんの言葉に思わず咽た。
「ばっ、かじゃないですか!」
「まぁ、僕は赤は好きではありませんが」
「そうだった?」
あの頃、と思わず言いかけて流されていることに気がつけばごほん、とわざとらしい咳をした。
「大体、透さんは私の過去知らないんじゃないんですか?元カレとの思い出をわざわざ掘り出さなくても」
「そうですね、今年は僕らの初めてのクリスマスですから」
「来年は別れてるかもしれませんけど」
「嫌なこと言いますね」
「トラウマですからね」
また来年も、なんて。
「…もう、破りませんよ」
「透さんとは、今年最後でも私は良いですよ」
透さんとは。
その目をまっすぐ見て
「…絶対、もう二度と、破らないでね」
零。
音にはしないで訴えれば、優しい笑みをむけられた。
「約束する」
「…うん、大好き」
抱き着きたくなる気持ちを堪えて笑い合う。
「あ、そういえば」
「どうされました?」
「赤が嫌いなのって、赤井さんだから?」
「貴女の口からその名前が出るだけでも吐き気がしますね」
どんだけですか、と笑えばその目は結構本気で。
「帰ったら、お仕置きして差し上げますね」
「遠慮します」
笑い合う。
零と別れて、離れて、こうしてまた再会して、好きになっていく。
来年は叶わないけど、必ずその人と過ごせるよ、なんて。
去年までの落ち込む自分に、もし届くなら伝えたいと…そう、思った。
今年のクリスマスはアナタと共に。
【fln】