第14章 フェチ【景光/警察学校時代】
〇〇の匂い。
大丈夫?と声をかけてくる〇〇に頷いた。
耳元で鼻歌が聞こえる。
ご機嫌だな、と言えば、楽しいからね、と笑われた。
ずっと好きだった。俺に対してこうも無防備でいてくれる〇〇に甘えて、首筋に鼻先を当てる。
「ヒロくん、くすぐったいよ」
くすくす笑いながら元気になったの?と訊ねてくるから、もう少し、と答えた。
もう少しだけ。
「ヒロくん?」
俺の名前を呼ぶ声。
汗が垂れる〇〇の首筋に顔をあげるふりをして耳の裏側の匂い。
「ヒロくんっ…!」
近い、と焦って俺の胸板を押して離れる〇〇の顔は赤く染まっていて。
「汗臭いから…ちょっと恥ずかしい」
今更。そのうえ、〇〇の恥ずかしいは俺が必要以上に触れていたことではなく。
「〇〇、着替えたらまたここで」
「もう大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫。それから、帰りの飯は、降谷も一緒な」
「え~…」
不満気。
たまには友達と羽根を伸ばしたいというような顔だけど、それなら同性としてほしい。
この気持ちが進行形な限り、伝えることはないだろう。
だけど、いつか。
両片思いだったあの頃を思い出しながら好きだったんだって言える日がくるだろうか。
鼻に残る〇〇の残り香に、満たされるような締め付けられるような、不思議な気持ちが心に残った。
あの頃告白していれば、そう思う気持ちは零じゃないけれど。
確実に居心地の良い友人ポジションである限り、〇〇は俺を頼り続ける…そんな、優越感は俺の中にだけにしまっておくことにした。
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