第1章 邂逅
「Ladies and gentlemen!
…さぁ、ショータイムの幕開けですよ」
予告通り、十時ぴったりを時計の針が刺したその瞬間。
館内のあちこちに設置されたスピーカーから、そんな声が鳴り響く。
機械でも通しているのか、人工的なその声からは年齢は愚か、性別すら計れそうにない…
広い館内、何処にいるか分からない相手を探すなんて、無謀な話。
ならば、と…
今夜、世紀の大怪盗「怪盗キッド」が狙っているという、うちの美術館の至宝…『クリムゾン・ブロッサム』。
自然光が入るように設計された天窓から、今日一番の高さまで上った月明かりが差し込む、明るい展示室のど真ん中に置かれたショーケースの中に入れられている…
そしてそれを、放送を聞いてあちこちから駆けつけた警察官が幾重にも取り囲む。
私も野次馬根性を抑えきれず、その一番外側から爪先立ちで。
月明かりを纏い鈍く輝く、紅い宝石を食い入るように見つめていた――が、しかし。
ぽん、とまるでクラッカーのような呆気ない爆発音とともに、突如宝石は消し飛んだのだ。