第2章 姫の願い
「そう、なの。私に何か不満でもあるのかしら。ね、アンナから見て私ってどこが至らなかったかしら。」
「様は頑張っておられます。攫われてきた此処でも、いつも不安を見せないように明るかったじゃありませんか。それに、あんな態度の魔王様を見てお話ししたい、だなんておっしゃるとは思いませんでしたよ。」
(頑張っている。私が?)
私は頑張っているんだ、なんて思った事なかった。
いつか勇者が来てくれるから、それまでの辛抱だから、って今日一日笑顔でいるようにした。
急に心細くなっても大丈夫、って思うようにした。それだけなんだ。
「私、頑張ってないわ。」
「笑顔でいてくださるだけでも嬉しいものです。攫われた姫だなんて毎日怯えて、泣いて暮らすのかと思っていましたから。」
「そんな事ないわ。楽しめることは楽しまなきゃ損。ね?」
「そうですね。」
そう言って、アンナが笑った。
無表情なメイドが焦りや戸惑いを見せるようになり、そして笑った。
この館に来てから初めて、人の笑顔を見た気がする。
他の人やメイド、付き人もみんなアンナのように無表情だったから。
初めて、人を笑顔にできた。