第10章 魔王の過去と使命
一緒に暮らし始めて10年ほど経ったある日、先代は一人の女の子を連れて館に来た。
女の子は18、9くらいで豪華な服や装飾品を着けていた。
先代は「例の姫だ」と言った。
本当に姫をさらうんだと現実味を帯びて恐ろしくなった。
先代は可哀想だからと姫に出来るだけの事をした。
食事も一緒にとり、城での生活と変わらないような努力をした。
だが、姫は「帰りたい」「貴方達のせいで」と魔王と先代を責め続けた。
こんなところに一人で連れてこられ、無理もないと魔王は思った。
さらわれてきた姫と追い出された自分の境遇を重ねた魔王は、姫を元気づけようとして姫の部屋を訪れた。
部屋の中は姫の望むまま先代が買い与えた宝石が沢山あった。
何の用と姫は言った。友達になろうと魔王は言った。
魔王は姫に、じきに勇者が助けに来ること、姫をさらったのは仕方ないという事を話した。
姫は渋々魔王と遊んでくれるようになった。といっても、ほとんどは姫が魔王をこき使っているだけだったが。
魔王は姫が笑顔になってくれるように必死で頑張った。
そんな日々が1ヶ月ほど続いた時。
先代が血相を変えて魔王の部屋に飛び込んできた。
「こっちへ来い」と言われ、無理矢理担がれるような状態で魔王は庭の幽閉塔に閉じ込められた。
しばらくすると、館から沢山の音が聞こえた。
庭の幽閉塔にまで届く悲鳴や怒号、剣と剣がぶつかるような金属音。
魔王が明かりとり用の窓まで登り外を見ると、館の中では戦いが起きていた。
勇者が来たんだ、とすぐにわかった。
戦いが始まってそろそろ1時間を迎えようかという時。
絶叫が木霊した。先代の声。先代に何かあったんだ、そう思ったけれどドアは開かない。
勇者と一緒に館を出て行く姫を見つけ、 窓を開けて叫んだ。
「〜〜様は!?屋敷の中はどうなったの!?」
すると、姫は「あのジジィなら殺したけど?屋敷の中はメチャクチャ。あんたらみたいなクズは殺されて当然よねぇ。」
と、嘲るような笑みで言った。
鍵を開けにきた使用人に連れられ館に戻ると先代は生き絶え、館の中は物が散乱し、姫の部屋だけが宝石などの物がなく綺麗な状態だった。
きっと宝石は持ち帰ったんだろう。
“あぁ、俺と先代がやった事は無駄だったんだ”と思った。
魔王は誓った。いずれ魔王にその時がきてもさらった姫には心を見せないと。
辛くなるだけだから。