第1章 攫われた姫
はぺこりと頭を下げた。
「はじめまして。サルビナ王国第一王女、でございます。」
いつも父様や母様がやっているように。
掴んでいたドレスの裾を離し、顔を上げると魔王は意外そうな顔をしてこちらを見ていた。
「お前は・・警戒とか、恨みとか、ないのか?」
「え?」
(そりゃまぁ、ないことはないけど。)
「くそっ、このままでは・・」
魔王の呟きが聞こえる。
(なにかまずいことしちゃったかな)
「あの、なにか粗相がありましたでしょうか?」
「いや、なんでもない。こちらの話だ。」
食事を始めようか、と言われて頷く。
「魔王様は、なんてお名前なのですか?」
「教えん。魔王様、のままでいい。」
「はい。」
(何か複雑な事情があるのかな?)
深追いはせず、美味しい食事を食べ、は部屋に戻った。
(魔王様、ちょっと怖そう。でも、叱られなくてよかった。)
なんだかあの魔王様は嫌な人ではないのだが、なぜか少し距離を取ってしまうような人だ。
というか、魔王様自身が人を近づけさせないようにしている感じがした。
言葉に棘はないが、なんだか冷たい。ふつうに話しているのに、距離がある。
(不思議な人だなぁ。人間嫌いなのかな?)
今は、それしか思わなかった。