第5章 第3者は初めからいなかった/黄瀬涼太
「アンタの事になると自分がわからなくなるんス」
「は?」
「さっきもクラスの奴等がアンタの話をしていて…俺の方がアンタを知ってるのにどの口が…とか思って」
ぎこちなく話す黄瀬涼太の腕に力が込められた。なんの話をしているのかさっぱりだけど、黄瀬涼太がそんなに私の事を理解しているのかは謎だ。そもそもそれじゃまるで私を好きみたいな意味にしか聞こえてこない。
「……名前で呼べよ」
「黄瀬涼太」
「おい」
急に何を…。そりゃ情事では流されて涼太なんて呼んでしまったが、やはり嫌われている身だ。気持ちなんか伝えてあげないし名前も無理。呼ばない。
「なまえ」
「離して」
「アンタまじで嫌いっス」
「知ってる」
「どうしたら振り向いてくれんの」
「は?」
「こんなにアンタを好きにさせられて困ってるんスけど」
「えっ?意味がわからない……」
なんでそんなに切なそうな声を出すの。今まで散々互いを嫌いって言ってきたのになんで今更好きなんて言うの。
「はじめから俺はなまえが好きだった」
「……」
「今でも変わらない」
「私は……ーーーー」
自然と涙が出た。いつから黄瀬涼太を好きだったかなんて忘れた。いつから黄瀬涼太を嫌いと嘘をついたか忘れた。結局口では嫌いと言っても心の深いところではそれを否定し続ける自分がいることは確かだった。
「ねぇ、好きなやついんの?」
「…」
「俺じゃダメなの?」
「……黄瀬涼太がいい」
私たちは同時に互いの唇を求めた。