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―BLEACH― 月明かりの下 (R18)

第2章 蕨と天女




少女の頰に触れようとしたギンの手がピタリと止まる。
彼女の閉じた瞳から、すっと一粒の雫が流れたからだ。

(泣いてる…?)

自分が泣かせた訳ではないのに、ギンはひどく動揺した。
少し眉を寄せた少女の瞳から、また一筋涙が零れる。

(……泣かんといて)

もう一度伸ばした指で、少女の頬を優しく拭った。
暖かくて柔らかい少女の頬を、壊れ物に触るようなギンの指が滑る。

少女の長い睫毛が震えた。
そして、その瞳がゆっくりと開かれる。

ギンは息を飲んで目を見開く。
まだ少し焦点の定まらない少女の瞳。それは右目と左目、それぞれ違う色をしていた。
右目は深い夜空の色。そして左目は、夜空を彩る月の色。
少女の黒と金の瞳と、ギンの澄んだ水色の瞳が見つめ合う。




しかしそれは一瞬のことだった。
はっきりと焦点の合った少女の瞳に、明らかな戸惑いと焦り、そして恐怖が映る。
大きな瞳を見開いて、少女が弾かれたように立ち上がった。
さっきまで眠っていたとは思えない素早さでギンから距離を取ると、そのまま背を見せて走り出す。

「待って!」

ギンの制止も虚しく、少女の背中はあっという間に木々に隠されてしまった。


ギンは膝立ちのまま一人、自分の手を見つめた。
その手に残されたのは、少女の頬の暖かさと柔らかい感触。
そして黒と金の瞳から零れた涙と、薄桃色の着物。

「また、会える」

根拠のない確信だった。
それでもあの少女が、ここへ戻って来るような気がしてならなかった。


だって、羽衣はこの手の中にあるのだから。


ギンはふっと微笑むと、着物と山菜の入った籠を抱えて歩き出した。
そして橙色に変わってきた日の光を頼りに、元来た道を引き返していく。
もちろん、この湖への道をしっかり頭に入れながら。


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