第2章 蕨と天女
左手に籠を抱えた少年は、見つけた山菜に手を伸ばす。少し屈んだ拍子に彼の髪がさらりと揺れた。
ふ、と息をつき顔を上げると、少し離れたところに生える瑞々しい山菜が目に入る。さっきからこの調子で、一つ採るとすぐに次の山菜が見つかっていた。それを追うようにして少年は、普段は入らないような山奥に入ってしまっている。
額に少し浮いた汗を拭って、少年が首を傾げる。彼の絹糸の様な銀の髪がまたさらりと揺れた。
(狐にでも化かされてるんやろか)
少年…市丸ギンはさらに山奥へ導こうとする山菜を見て、そう思った。
これ以上行けば、道に迷うかもしれないし、獣が出るかもしれない。
(…もうちょっとだけ)
手に持つ籠と体力にまだ余裕のあったギンは、進むことに決めた。
日が暮れるまでまだ時間もあるし、何より…導かれるような感覚に何かおもしろいことが起こるのではないかと少し期待した。
とは言え、獣に襲われるのは本意ではない。ギンはいつもより意識を集中させながら山奥へと進む。
しばらくして、籠を山菜でいっぱいにしたギンは息をついた。
獣の気配は無いが、期待していたおもしろいことが起こりそうな気配もない。
少々残念に思いながら引き返そうとしたギンの目に、また山菜が目に入る。
(あれで最後にしよ)
そろそろ日も暮れる。日の差さない真っ暗な山道を迷わずに抜ける自信はさすがに無かった。
屈んで最後の山菜を摘み取って籠に入れ、体を起こす。
今度こそ引き返そうとするギンの視界の隅で、何かが動いた。