第6章 柿と羽織
「それで、なんとか認められて…他の生徒とは全く別の授業を受けたわ」
真央霊術院の生徒は座学のほかに“斬拳走鬼”と言われる死神としての戦闘の基礎を集団で学ぶ。
しかしそれらは当然まだ四つの娘にできるものではなかった。だから凪は他の生徒と全く交わることなく一人で特別授業を受けた。
「最初の年はひたすら自分の霊力を制御する訓練と、読み書きの練習。それから徐々に死神としての基礎知識を学ぶ座学が増えたり…。それを手の空いた先生たちに少しずつ教えてもらったの」
今思えばかなりの特別待遇だったと思う。それだけ副隊長の説得が効いたということだ。
「先生達を説得してくれた藍染さんには本当に感謝してる」
凪は母の所属する五番隊の副隊長、藍染惣右介を思い浮かべた。彼なくして凪の霊術院入学は有り得なかっただろう。
母と同じく恩人である藍染も多忙から滅多に会えなかったが、たまの休みや自身の受け持つ書道の授業の帰りに顔を見に来てくれた。頑張っているね、と頭を撫でてくれる優しい手を思い出す。
「たくさんの人に支えられて私は霊術院を一度“仮卒業”したの」
“仮卒業”は特別授業の終わりを意味した。
真央霊術院にいる間、凪は両親に迷惑をかけまいと何でも素直に言うことを聞き、両親を守る力をつけたいと全ての授業を積極的に受け、驚くべき早さで成長した。
その成長を支えたのは実のところ、家族や教師たちではなく凪の並外れた才能だ。その証拠に、凪は彼女を教えた教師たち満場一致の意見で入学試験免除の上、真央霊術院の特進学級に再度入学することとなる。
「それで、仮卒業と入学のお祝いに…父様と母様がこの羽織を…」
特別に仕立てられた淡い桃色の美しい羽織は、娘のこれからの成長を見越して大きく作られていた。あの頃より成長したはずの今でも袖を通すと手の先まですっぽり覆われてしまうので、凪は袖を通さずに肩にかけるだけにしている。
これから両親とこの羽織に見守られながら、凪は成長していく…はずだった。