第6章 柿と羽織
東流魂街62地区、花枯(かがらし)。その人里離れた山の中にギンの住む小さな家はあった。
「ちょっと寒いかもしれんけどごめんな」
そう言うギンに導かれて、凪は少し緊張した面持ちで敷居を跨いだ。
凪は今まで一度も人の家に招かれたことがなかった。その経験が無かったのは、両親が万が一にでも凪の力や異変が他者に伝わることのないように考えてくれたからだ。
両親にはもちろん感謝しているが、そのことに正直少し寂しい気持ちもあった。しかし今はその気持ちもギンのおかげで溶けつつある。
「どうしたん?そんな嬉しそうな顔して」
凪の気持ちがわかりやすく顔に出ていたのだろう。ギンが振り返って機嫌良さそうに聞いた。
凪は少し照れながら差し出された座布団に座る。そわそわと木造の家の中を見回すと、相当古い家なのか所々に板を貼りつけて修繕した後がある。しかし部屋の中に物が少なく片付けられているせいか、綺麗だという印象が強い。
「はい」
家の中を色々眺めていたら、ギンがいつの間にかお茶を用意してくれていたようだ。向かいに座った彼にお礼を言ってお茶に手を伸ばす。すると何かが乗った小さなお皿を差し出された。
「これもどうぞ」
お皿ごと受け取って、乗っている物をしげしげと見る。乾物だろうか。一瞬梅干しかと思ったのだが、少し違うように見える。
「これって?」
「干し柿」
言いながらギンは自分の分のそれを口に入れた。満足そうな顔でもぐもぐと頬を動かすギンは子どもっぽくて可愛らしい。湖で見た彼とはまた違う表情に少しドキドキしながら、自分も干し柿を口に入れる。
「…美味しい!」
以前柿をそのまま食べたことがあるが、それよりも甘みが増している。
「そやろ?まだあるから遠慮せんと食べてエエよ」
聞けばこの干し柿は彼の大好物らしい。秋の間に山で柿を取ってきて自分で作るそうだ。そこまで聞いて凪はふと思った。
「そういえばギンはお腹が空くのね」