第4章 夢と過去②
今まで見たことのない両親の顔に、体が震えだす。
自分はいったい何をしたのか。
「これを見て」
麗が凪の前に手鏡を出す。
そこで初めて、自分の左目が金色に染まっているのを見た。
驚きと恐怖でさらに震える凪の手を取って、麗が続ける。
「凪、あなたお父さんに言っていた暗い所にいる夢を見ていたでしょう。どんなに揺すっても起きなかったのよ」
父が初めて自分に手をあげた理由がわかった。
揺すっても起きない娘を見て、どんなに不安だったのだろう。
「凪がその夢を見た後、あなたの左目が必ず金色になっているのよ。それは、母さんにも父さんにも、原因がわからないことなの。それに、あなたは…」
そこまで話して、麗が初めて言葉を詰まらせた。
震える娘を抱きしめて、背中をさする。
そうやって不安で歪む自らの顔を凪から隠した。
「霊圧が強くなりすぎているわ。制御する方法を、学ばなければ…」
はい、と消えるように呟いた娘をもう一度強く強く抱きしめる。
そして眠っていた娘が発した霊圧を思い出す。
(さっきの霊圧は…)
あまりにも濃く、あまりにも巨大で、そして…
あまりにも、虚に似過ぎていた。
「約束してちょうだい、凪。何があっても、私たち以外にその瞳は見せないで」
その約束を今日、破ってしまった。
山を下り終え、自分の暮らす宿に戻った凪は、玄関で崩れ落ちた。
「ごめんなさい…父様、母様…」
その震える肩を抱きしめてくれる者は、もう誰もいない。